2022.04.15
今回インタビューを受けてくださったのは、納棺師の木村光希さん。ディパーチャーズ・ジャパン株式会社の創業者です。納棺師というと映画「おくりびと」を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。
当時、主演の本木雅弘さんの所作が話題になりました。このとき技術指導をしていたのが、木村光希さんのお父様です。
「おくりびと」として多くの人たちを送ってきた木村さんが考える「より良いお別れ」とはどんなものなのか、お話を伺いました。
【聞き手:大下佳菜(女子アナ47 元NHK長野放送局・NHK静岡放送局キャスター)】
おくりびとが目指す「より良いお別れ」を実現するアカデミーやセミナー
ー御社の事業内容を教えていただけますでしょうか?
映画「おくりびと」にも活かされた納棺技術を取り入れた葬祭サービス「おくりびとのお葬式」を行っています。逝去後の初期ケアから火葬までを一貫して請け負い、故人様のお身体の変化に合わせた処置を施すことで、お身体の状態を安定的に保ちます。全ての葬祭スタッフが納棺師として高い技術を有していることも特徴です。故人様とご遺族にとって、最後のお別れシーンが「より良いお別れ」となるようにと考えています。
また日本唯一の学校「おくりびとアカデミー」での納棺師育成、福祉施設や病院への「エンゼルケアセミナー」を積極的に行っています。
ーエンゼルケアセミナーとはどんなものですか?
エンゼルケアは死後に行う処置のことです。
故人様のお身体のケアをしに行った時に、適切でない処置を見ることが多くてこんなお姿をご遺族に見せられないなということを何度も経験しました。看護師や施設の職員の方とお話をする機会があり伺ってみると、エンゼルケアをちゃんと習ったことがないという方がほとんどで、見よう見まねでやっていると。ちゃんと学びたいという声が多かったのでセミナーを行っています。
適切な処置をすることで故人様の表情もよくなり、よりよいお別れにつながっていくんですよね。口や目が開いている姿はご遺族にお見せしたくないなと思う方がほとんどだと思うので、そんな状況が少しでもなくなるといいなと思って今も続けています。
「納棺士」に込めるブランディング。葬儀業界ならではの表現、気をつけている伝え方
ー広報やリリース、SNSなど発信をするときに考えていることはありますか?
「死」とか「葬儀」など避けられがちな言葉が関わってくるので、打ち出したいメッセージと載せる媒体や事例などによって感覚で変えていかないといけないなというのは感じています。
さらっと伝えれば不快に感じる方もいるし、重く伝えすぎると重いなと感じる方もいるし。僕自身もいろんなSNSで発信してきたんですけど、この表現やこの言葉で不快だと思われてしまうんだとまだまだわからないところが多いですよね。
ー伝え方というのは本当に難しいですよね。
そうですね、こんな素敵なご葬儀のお手伝いをさせていただきましたと紹介することで、お葬式のスタイルは自由でいいんだと思っていただける反面、人の死をビジネスの広報にしているという捉え方をする方もいらっしゃいます。見え方というのは本当にその方によるなと思っているので、かなり気をつけているところです。
ーどのように発信されていますか?
折り込みチラシですとか、リスティング広告、最近だとオーガニックのSEO対策ですね。今はどの業界でもデジタルマーケティングに重きが置かれていますが、当社ではチラシなどのアナログ広告も、確実にお手元へお届けするためには重要な発信ツールです。
ーHPもとても充実していますね。「納棺師」ではなく「納棺士TM」と表記されていますが、これはどうしてですか?
納棺師は国家資格資格ではないので、技術はその方それぞれなんですよね。私たちの会社に属している納棺師、おくりびとアカデミーを卒業した納棺師の方などには武士の「士」を使ってもらい、お客様が「納棺士さん」だから安心だねと思っていただけるようなきっかけを作りたいなあと思って始めたんです。
納棺師コンテストで、業界・仕事に興味を持ってもらいたい!
ーこれまでの広報やPRで印象に残っていることはありますか?
納棺師の技術レベルをもっとあげたいということとより多くの方に納棺師という仕事を知っていただきたいという理由から「納棺師コンテスト」を以前開催しました。全国から納棺師を集めて審査をしたんですけど、それをNHKのディレクターが見てくれて、プロフェッショナルの取材を受けるきっかけの1つにもなったんです。そのおかげで納棺師についてたくさんの方に知っていただけるようになり、結果良かったです。
ーテレビ取材やインタビューなどもたくさん受けていらっしゃいますよね。どんなことを考えながらお話しされているんですか?
僕自身が生まれてきて何を残せるかっていうのを考えたときに、より良いお別れが増えていく、より良いお別れの場面をたくさん作ることができれば社会がより良くなっていく、そして僕自身が生きた価値であったり証になるかなと思っています。そんなことを意識しながら話しているような話していないような(笑)
あとはこの業界、この仕事に少しでも関心を持ってもらいたいと思っているので、出来る限り発信したいなと思っています。
ー2020年に出版された本も拝読しました。本も広報やPRの1つだったのでしょうか?
まず、本を読んでくださってありがとうございます。
本に関しては出しませんかとお声をかけていただいたこと、自分の想いを文字にしたいという考えがありました。あとは名刺がわりになったらいいなとか。発信というよりもアウトプットしたいという思いが強かったですね。
誰にでも訪れる死をどう捉えてもらうか?
ー私自身も「お別れ」はまだまだ先のことだと思っていましたが、本に書かれていた「死はだれもが経験する、唯一のライフイベント」という言葉にドキッとさせられました。
我々30代とか20代、10代の人とか若い層に今をより良く生きていただきたいということ、死は誰にでも訪れるものだというメッセージを伝えていくことは会社として、社会にとってすべきミッションだと考えています。会社はマネタイズも考える必要があり、今はなかなか踏み込んでいけていないかなと思っています。
ー今後どのようなことを発信していきたいと考えていますか?
1番知っていただきたいのは、弊社はスタッフに自信を持っているということです。葬儀会社の中でも珍しく若いスタッフが多いですし。誰よりも一生懸命やっている姿、そこは自負しているので働きぶりを一般の方にもっと知ってもらいたい、知ってもらえるようになったら嬉しいなというのがあります。
【取材後記】
とても穏やかにお話をしてくださった木村さんのインタビューの中で「より良く」という言葉が随所に出てきたのが印象的でした。
お仕事から離れている時間も「どうしたらより良いお別れが増えていくのか」と考えていらっしゃるとのこと。そんな中、3歳の娘さんと遊ぶことがリフレッシュに繋がっていて、「マニキュアを塗られています」とお父さんの顔を少しだけ見せてくださいました。
木村光希創業者 プロフィール
ディパーチャーズ・ジャパン株式会社
創業者 木村光希
1988年生まれ、北海道出身。映画「おくりびと」の技術指導を行った納棺師の父に幼少期から納棺の作法を学ぶ。大学在学中にキャリアをスタート。
2013年 株式会社おくりびと®︎ アカデミーを設立し代表取締役に就任。
2015年 葬祭ブランド「おくりびと®︎ のお葬式」を立ち上げる。
著書「だれかの記憶に生きていく」(朝日出版)の他、NHK「プロフェッショナル -仕事の流儀」に出演するなどメディアでも多数活躍している。
企画・制作
女子アナメディアPR局